excessive love

「くそっ!」
リョウと香はケンカした。
その理由は、折角の2ヶ月半ぶりの依頼を、依頼人が男だという理由だけでリョウが勝手に断ってしまったからだった。

「もうっ!今月もピンチだって言ってたのに、何で断っちゃうのよぉ!!自分はいいわよね、やりたくないことはやらないで、お金もないのにツケで散々飲み歩いてるんだから!・・・・・ふんっ、・・・もう知らないっ!!」
瞳をウルウルさせた香は、そう言って家を飛び出してしまっていた。
そういえば、最近はかなりピンチだったようで、次の依頼はどんな相手でもどんな内容でも受けるからね、と散々言われていたんだった。

俺は、自分が完全に悪いと自覚しているだけに、香を追いかけることができなかった。
でも、だからと言って、男の依頼は受けられない。
こればっかりは、しょうがないんだ。

俺は今まで認めようとしなかった香への想いを認めた。
認めざるを得なかった。
勿論、自分の心の内だけで認めたのであって、そんなこと香にも誰にも言ってはないが・・・。

もう、狂おしいほどに、香のことが愛しくて愛しくて・・・、この腕で抱きしめたくて・・・。
毎日会っているのに、夢にまで出てきやがるんだ。


今までの俺なら、香は俺なんかの傍にいるより表の世界の人間と幸せに暮らしてほしいと、どんなことをしてでも香だけは幸せになってもらいたいと、心半分(否、少しだけ、かな・・・)は思ってたから、まだ良かったんだ。

でも、もう俺は、香を手放さないと決めたんだ。
いや、どうやっても、何があっても、お前を手放すことなんてできないって、漸く認めたんだ。
だから・・・、依頼だからといってそこらの男を香に近づけたくないんだ。

男の依頼人は十中八九、香に惚れるんだ。
俺も自慢じゃないが、依頼人の女にほぼ毎回のように惚れられてるぜ。
香はそれを嫌がっているが(まぁ、女の場合は俺もその女に手を出そうとするってことも嫌がる理由なんだけどな)、俺だって同じなんだ。
しかも香は、超鈍感だから質が悪い。
俺は女がそういう態度を取ってきたらすぐに分かるから、誤魔化したりしてうまく逃げているが、香はそういうことが出来ないから、丸め込まれそうになることもある。

それに、俺に惚れる女は俺の上っ面しか知らねぇままだし(教えるつもりもないがな)、危険なところを守ってくれたヒーローみたいな、そんな程度のもんなんだ。
種族維持のための本能ってヤツだな。

まぁ、絶対に有り得ないことだが、もしその女と一緒にいることになったとしたら俺、すぐに冷められるぜ。
4,5日持ちゃぁ、いいほうじゃねぇか?
だって俺は、ナンパするし、夜はツケで飲みにいって明け方近くまで帰らねぇ、仕事もしねぇ、家事もしねぇ。

だけど、香に惚れるヤツは、香の性格、料理上手、家事をテキパキこなす様、その容姿、そして、俺みたいなヤツに付き合ってもないのに尽くしてる健気なところ・・・、すべて含めて惚れるんだ。

これも絶対に有り得ないことだが、もしその男と香が一緒にいることになったとしたら、男は益々、香に惚れ込んでいくだろう。
つくづく香って、最高の女だな・・・、絶対に手放したくない・・・・・、とな。
ま、まぁ、俺もその1人であるからしてぇ・・・、っと、そのぉ・・・気持ちも分からなくは、ないんだが・・・・・。
だ、だ・か・ら!だからなんだ!!俺が男の依頼を受けたくないってのは!!

なんで分っかんねぇかなぁ〜、香ちゃんは。
って、分かってもらっても困るよなぁ・・・。


「あぁ〜っ、くそぉっ!なんだか情けねぇな・・・、俺・・・」
リョウはイライラして、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、ブツブツ言いながら家の中を歩いていたが、フと、ある存在を思い出した。
それは、香がイライラしてるときに八つ当たりするリョウちゃん人形のことだ。
まぁ、香がイライラする原因はほとんどが俺にあるわけだから、俺の姿形をしたリョウちゃん人形で憂さを晴らす訳だ。
俺も今はどちらかと言えば、香よりも自分自身に腹が立っているから調度いい。
俺は香の部屋へリョウちゃん人形を取りに行き、その人形相手に殴ったり蹴ったりを繰り返した。

だが、この人形は、ストレス発散の道具でもあるが、香の寂しさを紛らわしてくれるものでもあり、香が手作りした大切な人形なのだ。
そのことを思い出したリョウは、一先ず落ち着き、俺の攻撃で痛んでしまったリョウちゃん人形を抱えた。
そのとき、フワッと香の匂いが漂った。
その匂いは、リョウちゃん人形から発せられるものだった。
リョウは思わずリョウちゃん人形を抱きしめ、香の匂いを何度も何度も嗅いだ。
すると、不思議と先程までの苛立ちは、すぅーっと消えていった。

俺が今どうあるかの全ては、香で決まっちまうなんてな・・・。
「ククッ」
俺は、リョウちゃん人形を抱きしめながら嘲笑した。

「でもお前はいいよなぁ〜。俺のカッコしてんのに、香に抱きつかれてんだろ?!」
俺は思わず人形相手に言った自分の一言に笑いが止まらなくなった。
「フフッ、っはははは・・・・・。俺は人形にさえ嫉妬すんのかよ。俺、香に相当ヤバイくらい惚れちまってるな・・・。フフッ。厄介な女だぜ、まったく!」

「そうだ!俺に香ちゃん人形作ってもらおうかなぁ♪ 香が作った香ちゃん人形なら、香の匂いもするしぃ、そしたら香ちゃんを抱きたくなったときにぃ、香ちゃん人形を抱いて寝ればぁ、少しは寂しくなくなるだろうしぃ・・・・・」
リョウはニヤけながらそこまで言ったが、突然頭を横にブルブルブルっと振り出した。
「だっ、だ、ダメだ。香に香ちゃん人形を作ってくれなんて、そんなこと、この俺が言えるわけねぇじゃねぇかっ!!」

「ちっ、しょうがねぇ、男の依頼は受けられねぇが、とりあえず、なんとかして香の機嫌を直してもらわねぇとな。」
そう言いながら、リョウは香を迎えに行った。


だが結局リョウは、やっと見つけ出した香に
「リョぉ〜、・・・どうしても、ダメなのぉ〜?」
と上目遣いにうるうる瞳で言われ、その依頼を受けざるを得なかったらしい・・・





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